踊るたぬきのサンバ・ノ・ぺ

踊らされて生きているたぬきのお話

あきらめないこと

と言ってもあまり暑苦しい話がしたいのではなく。

ようやく翻訳の大仕事が少し片付いてきたので翻訳の話をしようかなと思ってこんな内容の投稿をしている。別に語学の才能に長けているわけでもなく、頭も悪いポンコツたぬきだけれども、翻訳に関しては翻訳学校に課金して、一応翻訳でお給料をもらっていたこともあるので、私の専門として話してみようと思う。これは頭の使い方の話なんで、細かい知識は勉強してアップデートし続ける必要があるのは言うまでもないし、それを最近してない私はダメ翻訳者になりつつある(今は一応、統計解析プログラマーなので)

 

私は和訳をする時と英訳をするときでは頭の使い方が少し違うなと常々感じている。人によると思うし、どういう性格のドキュメントを訳すかによっても違うけど。基本私の場合、文芸翻訳をすることはまずなくてテクニカルドキュメントの翻訳が多いから、難易度は低いと思う。

 

和訳をする時はいかに悩まないかがテーマ。感覚でつるっと訳して、でも取りこぼしなく英文に含まれている意味やニュアンスを日本語に組み込む。私にとっては本当にひらめきがものを言う作業。たまに英文を和訳するときにだけ使うような日本語で訳している人がいるけど、私はそういう粋じゃない和訳をしたくないので、自分の中の感覚にたくさん相談しながら和訳している。

英訳はその反対の作業。日本語を感覚的に読んで、その感覚をどう厳密にかつ本質的に言い換えられるか(この時点ではまだ日本語で)で8割決まる。イケてない日本語を直訳してもイケてないどころか意味不明な英文が出来上がるだけ(イケてないとか死語だな)。英訳が上手い人は無生物主語の使い方が上手い、と昔何かで読んだことがある気がするけど、それは本当だと思う。

日本語の意味する内容を変えずに、文の構造を柔軟に書き換える力があると、急に英訳がしやすくなる。例えば、◯◯を背景として、××を発症した。と言った場合、背景をbackgroundとそのまま訳したら意味不明なことになる。かと言って、◯◯ causedと訳したら◯◯が××発症の直接的原因であるかのような書き方になってしまうのでこれも正確ではない。affectedとかも言い過ぎだろう。◯◯があったことが何らか関与して、××が起こったと言いたいのなら私は、In the presence of ◯◯にすると思う(これが正解かどうかは知らないが)。

また患者はDICを発症した、と言いたいときに、この場合のdevelopは自動詞なので、The patient developed 病気.という言い方は実はあまり正確ではない(まぁ、許容はされるという程度)。そこで病気を主語にして、DIC developed in the presence of sepsis. と言えば、「敗血症を背景としてDICが発現した。」という文にできる(くどいけど、これが正解かは知らない。まぁ、sepsisはDICの原因だからcauseを使ってもいいような気がするけど、上の日本語でcauseを使って訳す勇気はないかな…治験責任医師に持ってったら絶対直されるだろうし)。

 

こういう発想の転換って英訳には大事で、この発想というのが、ひらめきから生まれるわけではなく、時には本当にうーんと声に出して唸りながら考えに考えてやっと思いついたりする。英訳は私にとって和訳と比べるとかなり思考に頼る部分が大きいので、遥かに時間がかかるのだけれど、実は私は和訳よりも英訳の方が好きだったりする。

何となく表現にしっくりこない時は一晩持ち越してでも考え続けてようやく自分でもハッとする表現に辿り着けたりする。

私は頭が良くないから、すぐにいい表現には辿り着かない。非効率でも、一旦保留にしながらでも、考え続けて気にいる表現を諦めない。それが降ってくるまで考え続けるって割と楽しいこと。

 

私の過度な発達障害じみた過度なこだわりもこういうところでは役に立つのかな、と最近時々思う。