踊るたぬきのサンバ・ノ・ぺ

踊らされて生きているたぬきのお話

あからさまな詐欺師

Threadsにお金持ってても歯がない人は信用できないみたいなポストがあって、マジそれな、と思うエピソードが昔あったので書いてみる。

 

と言っても例によっていつもの如く、またか、と言われそうだが、私が昔若かった頃、仕事に悩んで、本当に食事もできなくなり、毎日焦燥感だけを抱えて生きていた頃の話なので、大っぴらに書く話でもなく、ブログの方に。

 

その頃は夏で、地球の反対側のブラジルは冬、多分ブラジルはサンバの閑散期だったんじゃないかと思う。もう7-8年前のことなので記憶が定かではないが、ブラジルはそんな時期だからか、カポエイラのチームの人が呼んだブラジルの人のサンバのワークショップが開催された時だったと思う。今ほどzoomでのオンラインレッスンなんかも盛んではなくて、本場の人のワークショップに参加出来る機会もそうないので、私は体調不良を押して参加していた。休職する直前、仕事もサンバも上手く行かなくてボロボロだった時期だ。

 

そうは言っても激病みだった時期だから、体調不良がひどすぎて出かける直前まで起きられず、無理やりシャワーを浴びてノーメイクで、髪ボサボサ。箪笥の中から適当に引っ張り出したコーディネートのチグハグな見窄らしいヨレヨレの服で出かけていた。サンバのレッスンに見窄らしい格好で行ってはいけないというベテランパシスタのお姉さんたちはたくさんいるが、その時の体調もメンタルも激悪な私にそんな余裕はなかったことはご理解いただきたい。決してサンバを侮辱したかったわけではない。それでも踊れるようになりたかったのだ。

 

ワークショップの内容自体はほとんど覚えていないのだが、その帰り、どういうわけか、昼間の渋谷駅を通った。何かの路線から乗り換えて副都心線の乗り場に行きたかったと思う(当時茗荷谷に住んでいたので、渋谷乗り換えだと副都心線で池袋まで行って池袋で丸ノ内線に乗り換えていた)。

 

渋谷駅はいつでも人が多くて、私は本当に好きじゃないのだけれど、その日は、その往来の中でネイビーのシックなスーツを着た50代くらいの男性が、わざわざ往来の邪魔になるような場所に立って、人の顔をいちいち覗き込んでいた。何だか気味が悪くて、遠くからその人を見つけた私は少しその人から離れたところから通り過ぎようとした。

が、私がその人に近づいた瞬間、彼は私の前に立ちはだかって、

「こんにちは。私、とあるNPO法人の職員をしてまして決して怪しい者じゃないんです、今少しお時間よろしいですか?」とにっこり笑ってきた。

若かったらすごくイケメンだっただろう一点の曇りもない笑みだった(その当時でさえ、俳優のように見える顔立ちだった)。

ところがその人の歯は、笑うと見える前歯全てに金属の板(?)がはまっているのが見えた。ポーセリンか自分の歯か、白い部分はあるが、全ての歯に金属が入っていて、治した痕跡があるのだ。しかも全部きんきらきん…。

 

それを見た途端、理由はわからないが言いようもない不気味さと恐怖に襲われて、

「いや今急いでるんで!」

と半ばその人を押し退けるようにして慌ててその場を離れた。

ただでさえワークショップの帰り、体調が良くないところに疲労していて、さらに見窄らしい服装でノーメイクで平気で渋谷の駅を歩いてしまっていた私…。怪しい人に声かけられるのは当然だと思う。

 

でも、そんなどう見たって怪しい出立ちの人に「決して怪しい者じゃありません」って言われて笑いかけられただけでついていくように見えてしまったというのは、病んでいたとはいえみくびられたものだな、と思う。

だから見た目を整えるのは大事だという人の言うこともわかる。

 

ただ、病んではいても私の知性はそこまで死んでいなかったし、体調不良なのにサンバを踊りに行くほど無駄にエネルギッシュな迷惑メンヘラだったことをあのきんきら金歯詐欺師ジジイに気取られなかったのは、本当に本当にラッキーだった。

 

そうは言っても、もっとメンタルが弱っていたら絶対詐欺だろとは思っても、断るのがしんどくてただ着いて行き、言われるがままにお金払っていた可能性だってある。メンタルのエネルギー不足は恐ろしいほど思考力と行動力、Noと言う力を奪う。

 

まぁ、そもそもサンバのワークショップじゃなきゃ華やかな渋谷になんか出かける気にもならなかっただろう。

 

そしてそのきんきら金歯詐欺師ジジイも金歯以外は年齢にも背格好にも見合った落ち着いた服装をしていて、素晴らしく温かな笑顔を作れる人だった。だから私はあまり今でも人のキラキラの笑顔を信用しないと言うのもあるのかもしれない。

 

とにかく、何か一つでも、わずかにでも、その時の私の生きる力を上回る悪条件があったら今どうなっていたかわからない、私にとっては怖すぎる出来事だった。だから私はめちゃくちゃ歯を磨くし、あまりにも口腔の衛生に無頓着な人は少し警戒する。臭いとか汚いとかバカにしてのことではないのだ。

 

一生付き合う物にはその使い方でその人の人間性が出る。持ち物よりも何よりも。